2014年 09月 02日
元住吉 和蘭燈
40年続いたそうだ。
40年、という事は単純に計算すると僕が9歳の時に開店した事になる。
40年前、という事は昭和49年、か。
この店には記憶では開店当初からお世話になっていた。
当時実家は商売をしていたお陰?で近所にあった(今はない)H大学水泳部の合宿所があり、そこの学生たちが我が家に半ば半居候状態で出入りしていて、小学生だった僕は事有る毎にその学生たちに和蘭燈に連れて行って貰った。
”了一、冷たいジュースでも飲みに行くか?”、”クリームソーダ美味しいぞ”、”バイト代入ったから何でも喰え”、などと誘われるままに通った。
昭和のあの頃はまだ、喫茶店に行くだけでも不良呼ばわりされた時代。小学生の僕は保護者同伴?で堂々と週に何回も通った。
姉達ともよく行った。姉達も背伸びしたかったのかもしれない。
家族でも渋谷や銀座に映画を観に行った帰りや葉山の海などに出かけて行った帰りなど、”なにか冷たい物でも飲んで行こう”、と立ち寄った。
駅の目の前、という事もあり、”元住吉駅に帰ってくるとホッと一息つける場所”、だったのかもしれない。
中学にもなると背伸びして悪ガキ仲間と連れ立って出入りしてはタバコ吸ったり一杯のコーヒーで何時間も粘った。
インベーダーゲームなども置かれた時期もあったがあの店の雰囲気には似合わず、すぐ撤去された。
高校生ともなると殆ど毎日のように通ってタバコを吸った。
まだそういうおおらかな時代だった。
店が2階、という事もあり、窓際に陣取っては駅から出てくる友達を、女の子を待ち伏せては急いで下りて行き
声を掛けて誘ったりした。
20代になるとタバコは公認、堂々と当たり前のように通った。
時代も平成になると元住吉にも大企業の実に味気のないチェーン店が出店し始める。
それでも元住吉は個人店が実に生き生きと頑張っている方だ。
僕もトシを追う毎に和蘭燈から足が遠のいて行ったのが事実だ。
そんな或る日、”和蘭燈が8月いっぱいで閉店するらしい”、と噂を聞いた。
もう何年も足を運んでいないクセに勝手だが居ても経っても居られずに幼馴染を誘い、閉店の日ギリギリにどうにか集結しお店に何年振りに集まることが出来た。
最終日、という事もあり混雑を承知で行ったのだが和蘭燈はいつもと変わらず、僕たちが通い詰めた当時と何も変わらず淡々と営業していた。
勿論僕たち同様、別れを惜しんで来店している人たちもいたけれど、近頃よくある、特に東横沿線では桜木町駅閉鎖、渋谷駅改装の時にあった、いわゆる、”便乗騒ぎ”、みたいなものはなく、本当に閉店するのかな?という、実に平穏な普段通りの雰囲気で、僕等は寛ぐ事が出来たし、なにより和蘭燈が再び悪ガキたちを当時のままで再会、集結させてくれて、お店も当時のままで迎え入れてくれた事が嬉しかった。
悪ガキ3人は当時のまま窓際に陣取りタバコを吸い、昔話に華を咲かせた。
2014年8月29日(金)、元住吉西口駅前の喫茶店、和蘭燈の燈火が消えた。
でも僕たちの心の中にはずっと和蘭燈の燈火が燈っている。




